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アナモル・フォーシス『MONDO PIECE』 d

 噛まれた指の上をを赤い線が流れる。
解っているのだ
本当に隙間を埋めて欲しい相手を。
幸せや痛みをほんの一瞬だけ知っているのと
全く知らないで生きているのは
一体どちらが不幸なのだろう。
知らなければ求めようと思わなかった、
恋焦がれることだって無かった。
でもその一瞬の恍惚を知ってしまった。
あぁなのに、
この隙間は風が吹くばかりで
冷たさが体に染みる。
満たされたいと、渇望する。
噛まれた指には、血が滲んでいた。
「優しいって、どういうことか解るか?
人の痛みを知っていることじゃない、
自分が如何に醜く汚れた極悪人かを知っているヤツのことさ。
だから他のヤツがそうであっても
赦すことが出来る」
かつての自分は、醜悪で彩られた自分自身に失念していた。
私欲のために一度は捨てた息子の手を
自身の復讐のためにもう一度取った。
彼は屈折した、愛憎とも情欲とも言える
瞳で俺を拐かした。
なのに彼は最後に俺に乞うたのだった。
それは無性に愛されること。
生きる価値もないと自分を蔑ろにしていた彼が
幼い頃から夢見ていたもの。
親として、俺は彼にそれすら与えてやれず
結果、その背を永遠に抱きしめてやることはできなかった。
悲しみと苦しみを言語化する術を知らず
震える手だけが
屈折した悲愴を訴えていた。
冷たい彼女の頬に掌を当て
涙の筋道をそっと拭う。
それでも尚涙は止め処なく流れ続けるが
これがあの時の罰だというのなら
甘んじてこの身を捧げよう。
俺の人生を、息子を天へ届けてくれた
深海に沈んだ瞳を輝かせることが出来るのなら。

 

 

「……ホント、あなた馬鹿みたいなお人好しよ」
何も知らないくせに
私の罪を、過ちを赦そうって言うのだから。

ねぇ、貴方ならわかってくれる?
ある日訪れた魔法使いは
私の半身を引き千切ってしまったの。
半分だけしかない身体を守るために
私は私の心を閉ざしたの。
外界から自分を守る術として
分厚い殻で、世界を隔てたの。
そしたら世の中に溢れる心を震わす総てのものが
私を打ち抜こうとする弾丸でしかないの。
この体は偽物だから
血は、流れない。
でも衝撃は私の心を撃ち震わせ
心は、いつまでも平穏を保てない。
誰がわかってくれるの?
私の中に生きる最愛の人にすら
もう私の声が聞こえないのに
あの人だけが私のことを知っていてくれたら
世界は作り物で一向に構わない、
行き交う総ての人間が蝋人形でも。

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